ファッションと作家性―ZEEMANのショーから見えてくるもの―

 もう1ヶ月ほど前の話題になるが、アムステルダム・ファッション・ウィーク期間中の7月20日、オランダを中心にヨーロッパで展開しているファストファッションブランドの「ZEEMAN(ゼーマン)」が、「FRANK(フランク)」という偽のブランド名を冠し、公式スケジュールでコレクションを発表した。このショーでは、フィナーレまでZEEMAN主催であるという事実は隠され、インヴィテーションの内容からランウェイまで、あたかもハイブランドのショーであるかのように演出され、来場者も種明かしまで事実に気づかないという珍事となった。今回は、この「事件」を手がかりとして、ファッションと作家性に焦点を当ててみたい。

 まず、この一件は、1アパレルメーカーのプロモーションとしては大成功だっただろう。コレクション(=プロモーション)をオランダのファッション関係者の多くに実際に観せられたことと、終了後の国境を越えての反響を鑑みると、ブランディング・プロモーションとして最大限の効果を発揮したと言える。また、ショーの最後に「Looking good doesn't have to be expensive(お洒落にお金をかけなくても)」という皮肉が登場したように、いまやファストファッションは確実にファッションの一翼を担っており、「お洒落」をするのには必ずしもハイブランドを身に付ける必要も、心惹かれる服を探してお店を練り歩く必要もなく、誰でも手軽に「お洒落」をできる状況となっており、これは的を射た風刺であると言える。

 しかし、年に2回、各国で開催されるコレクションで発表される衣服でデザイナーが伝えようとするものは、当然のことながら「お洒落」ではない。由緒あるメゾンは、長い時間のなかで作られた歴史や精神を、時代性を反映しつつ伝え続けているし、新進気鋭のデザイナーは、それぞれの思想や表現を、衣服を通じて発信している。「お洒落」は与えられた道具を用いて、自らをファッショナブルに見せるための手管だが、「ファッション」は、各時代の空気やその時代を生きた人間の思想が、衣服というかたちで表現された文化だと言え、デザイナーが表現するのは、時代性や思想といったもののはずである。
 プレタポルテ以降のファッションは、○○年代の再来というような恣意的に設定された流行や、ジャケット、スカート、パンツなど、数多くのアイテムの組み合わせによって成立するという性質上、そもそも東浩紀が言うところの、「データベース」的な要素が色濃いものである 。そして、インターネットによって、ハイブランドのコレクション映像とファストファッションのプロモーションサイトが、コレクションブランドのECサイトと大量生産、大量消費のECサイトが並列され、欲望と消費の構造に組み込まれているという現代の時代性から、そのデータベース性は加速していると言える。 
 ZEEMANの今回のショーと、それをおもしろい試みであるとして賞賛する声が多い現状は、ファッションのデータベース性が偏向され、衣服のデザインには、消費文化のロジックだけでなく、各時代において抽出されてきた時代精神や、デザイナーが表現しようとする世界観といったものが反映されているということが軽視された結果であるように感じられる。そしてこれは、ファッションの文化的側面ではなく、資本主義構造のなかの消費の対象としてのファッションにばかり焦点が当てられてきた、00年代以降のファッションの流れを端的に表したものである 。このような試みが広く行われるようになり、デザイナーがコレクションと銘打って作品を発表することの意味が拡散してしまうと、ファッションはデータベース性だけでなく、時代を切り取るデザイナーの眼という作家性に支えられて成り立っているものだということがますます見落とされていき、「ファッション」の持つ意味や力は減じていく一方となるだろう。

 いまやファストファッションは世界の市場を席巻しているが、彼らのプロダクト自体、これまでのファッション史で作られたモノや概念の存在や、コレクションブランドとメディアが流行概念を生み出すことなしには生まれ得ないものである。手軽な「お洒落」にファストファッションが欠かせないことはもはや否定できない事実だろう。しかし、ファッションを創っているものは「お洒落」に必要なデータベースだけでなく、時代精神や世界観といったデザイナーに紐づく概念(=「物語」であるとも言える)は必須のものである。これからのファッションのためには、この作家性と言えるもの抜きには「ファッション」は成立し得ないことをより多くの人が認識すること、コレクションブランドと、ファストファッションを始めとしたそれ以外の各アパレルブランドが、互いを貶めるのではなく、尊重しあうようなものづくりをする土壌が形成されることがますます重要になっていくだろう。

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