- Posted by ririse taki (@riri1019)
- 2011.11.07
- Column
NOAH’ STOREというプロジェクトをご存知だろうか?
このプロジェクトは、若手のデザイナー9組(※)が集まり、彼ら自身が企画から販売まで含めて運営し、日本の主要都市の百貨店を中心に、各ブランド合同のショップ空間を創りだす、画期的なものである。「NOAH」の名前のとおり、神話上のノアの箱舟のように、複数のブランドが「お店」というひとつの舟に乗り、各地を行脚しつつ衣服を販売することで、百貨店やブランドショップ、セレクトショップといった、これまでのファッションの販売体制とは一味違った世界観の打ち出しを可能にしている。
今回、このプロジェクトを主催している、GANGLIONの吉﨑結一氏、GUT’S DYNAMITE CABARETSのAKI氏、Hidenobu Yasuiの保井秀信氏、mifrelの笠智聡氏、Naoshi SawayanagiのNaoshi氏、Tany Design Roomの谷山浩史氏に、お話を伺った。NOAH’ STOREを始めたきっかけや目的、運営していくなかでの「気づき」、今後の展望など、内容は多岐に渡ったが、そのなかで見えてきたものは、ファッションにおける情報伝達と売り場の関係性と、それを変化させることによって拡がる様々な可能性であった。
現在、多くのファッションの売り場では、若手デザイナーの服に関していうと、百貨店の自主編集型売り場において販売されている。自主編集型売り場では、アイテムやブランドといった区切りなく、百貨店の館や売り場のテイストおよび年齢層や、シーズンごとの流行やアイテムバランスに基づいて顧客に衣服を見せるしかけになっている。そのため、百貨店としては在庫効率や消化率を良い状態で販売を行うことができ、顧客としては漠然と欲している「何か」を比較的容易に多くの選択肢のなかから選ぶ場を与えられるため、伊勢丹の「リ・スタイル」の成功以来、百貨店の売り場の主流となっている。
しかし、この売り場のスタイルでは、デザイナーは予めジャンルや年齢により区切られた顧客層にしかアプローチできず、さらにトレンドベースでの売り場作りのなかに置かれることとなるため、自らのデザインのコンセプトやメッセージを伝えることは非常に困難になってしまう。NOAH’ STOREは、このような自主編集型売り場や大手セレクトショップの弊害を的確に見抜き、解決策として「行商」的な売り方という的確な手法を提示している。
というのも、デザイナー本人が売り場に立つことで、当然のことながら作り手の意志は確実に顧客に伝えることができ、また、企画・運営・販売全ての流れにデザイナー自身が参加しているため、NOAH’ STOREとして伝えるべきメッセージを全ブランドで共有し、何を見せることでその伝達が可能になるのかを明確にした状態で顧客と対峙することができるからである。さらに、NOAH’ STOREのプロジェクトにおいてコンセプトやメッセージの共有は非常にプライオリティの高いものとして設定されており、2週に1度行われるミーティングにデザイナー自身が参加することが、このプロジェクトに参加する必須条件にまでなっている。
インタビューのなかで、売り場はお客様に直接情報を伝えることのできる重要な場所であるにも関わらず、ものを売る場としてしか機能していないところも多い、という話題になったのだが、コンセプトやメッセージの共有なしに売り場における情報伝達は明らかに機能しない。しかし、単にトレンドベースで創られ、売り場のそれぞれにまでコンセプトが行き渡っているとは言い難い百貨店等の販売現場は、まさにものを売る場としてしか機能していない場合が多く、このような場に情報伝達という機能を蘇らせようという試みは、マーケティング的観点からは成し得ない販売の場を、百貨店や大手セレクトショップに復活せるひとつのきっかけにもなり得るものであるように思われる。
また、NOAH’ STOREのホームページにも「限定されたお客様だけでなく今まで出会えなかったお客様への販売チャンスを創出する」とあるように、第三者の手で設定された顧客以外への販路が広がることと、そこで新たな反応を得られることは、デザイナーにとって大きな利点であるだろう。ファッションを語るとき、売るときには、往々にしてテイストやジャンルによって伝達対象を限定してしまいがちだが、それらを制作の観点に入れて、またはそれらに基づいてデザインをするデザイナーはごくわずかで、後付でできた枠組みに衣服も顧客も当てはめられているのが現状である。しかし、NOAH’ STOREという箱舟においては、いわゆる「ガーリー」なワンピースも、「パンキッシュ」なジャケットも、「モード」なパンツも同列に存在し、顧客は、そしてときにはデザイナー自身も、既成概念にとらわれず「生」の衣服と向き合うことができるのだ。
このフラットさは、東京ファッションの特徴であるミクスチャー感覚と通ずるところもあるが、こまめにセレクトショップを回り、コレクションや展示会に足を運んで服を買う、一部のファッションアディクトな人々だけでなく、百貨店という一般的な買い物の場にいる人々にこのような感覚を持ち込んだことは、ファッションそのものや、東京という都市の特異なファッション感覚をより開かれた場で提示することでもあるだろう。また、誰かに意図的に編集された空間からではなく、デザイナーのメッセージと自らの編集手法をたよりに衣服を選ぶことは、買う側にとっても新しい体験たり得、多くのファッションアディクトな人々が魅せられているように、それは間違いなくファッションの楽しみのひとつである。
もちろん、この試みの背景には、販路をどのように開いて製品を売れる場まで持っていくかという、若手のデザイナーにとって極めて重要な問題を解決するという目的も横たわっているのだが、NOAH’ STOREの手法は、単に衣服を制作するだけでなく、販売の方法までデザインする画期的な試みであると言えるだろう。
ファッションの売り場の在り方や、ショッピングの新しい可能性を示唆するNOAH’ STORE。次回は11月9日(水)より、日本橋三越にて開店する。ぜひ足を運び、それぞれがお客様としてこの「箱舟」を体験し、これまでとは異なるファッションの楽しみを見つけて欲しいと思う。
※現在参加しているブランドは、A DEGREE FAHRENHEIT、GANGLION、GUT'S DYNAMITE CABARETS、Hidenobu Yasui、jazzkatze、mifrel、Naoshi Sawayanagi、TANY、Ujoh(アルファベット順)。ブランドは固定ではなく、今後の運営のなかで入れ替わる可能性もあるという。
NOAH’ STORE
http://www.noahstore.org/
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